先生に負けた

残念ながら若年性認知症は治らない病気である。

進行をなるべく遅らせて本人にとって辛くない生活を送ってもらうことが

私たち介護者ができることの全てである。

2009年に夫が病気を告知されてもうすぐ9年目になる。

夫の病気の進行を遅らせるためにあれこれ試してみたが、結局まだ還暦にもなっていないのに「要介護4」に

なってしまった。

要介護4は次のような状態であるという

「行動能力がかなり低下しているため、歩行や入浴、排泄、清潔・整容、衣服の脱ぎ着といった作業に全介助が必要。

食事の際の見守りも必要である」
 
今の夫の状態そのものである。

ただし歩行に関してはほぼ問題なく普通に歩くことができて、排泄もほとんど失敗しない。
 
残念ながらこんなにも進行してしまったが、今の彼を見てもさほど悲しくは感じない。

彼なりに自分の人生を謳歌しているように思えるからだ。

彼は数年前から妻や娘たちを認識できなくなった。

ところがその代わりに、散歩で見知らぬ初老の男性を見かけると丁寧におじぎをして

「今のは○○先生だよ。」

と楽しそうに私に言うようになった。

散歩で私に話す内容も、そのほとんどに「先生」が登場してくるようになった。

夫の「先生」フェチが最近ますます過激になってきている。

今は赤ちゃんや子供以外の通行人すべてが「先生」に見えてしまうらしい。

作業服を着たおじさん、普段着姿のおばさん、子供連れの若夫婦・・・

ぜ~んぶ偉い先生である、

そして本当に先生らしい雰囲気のある初老の男性が歩いていると大喜びで

「ほら先生が10人来た!」

と人数を水増しすることでその「先生」が格上であることを強調する。

先週の散歩に至ってはつまらなそうな顔をして歩いている普通のおじさんにいきなり近づいて

「あなた、かっこいいですよ。」

とおじさん、いや「先生」に急に愛を告白して、先生を困らせてしまったではないか。

いつも同じ服を着て研究室で黙々と本を読む先生

授業の後いつも学生を引き連れて豪快に飲み歩く先生

専門以外の趣味の話になるととまらなくなるオタク系先生

きっと今の彼の脳内ファイルには無数の先生があふれていて、家族のデータを収納するスペースがないのだろう。

忘れられてしまったのは悲しいが、相手が「先生」だったら負けても良いかという気持ちになれる。

「先生」に対する思いがこうも強いということは、彼が学ぶことに真摯に向き合ってきた証なのかもしれない・・・

うん、そう思うことにしよう。

もしも彼が私たち家族を忘れたあとも頭に残っているのが「先生」でなく「女の人」で

散歩中女性を見かけるたびに楽しそうに

「僕が付き合っていた〇〇さんだ。こんど連絡しよう。」

「僕の彼女が10人来た。」

いわれたらそれは決して気持ちの良いものではない。

それと比べれば「先生」のことがどうしても忘れられないなんて、可愛いじゃないですか・・。


認知症になってからの夫の七変化は、私に多くのブログのネタを提供してくれた。

最近の七変化はほっこりしているので私も楽しんで皆さんに報告することが出来る。

ずっとこんな愉快な症状が続いてくれれば良いのですが・・・。

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テーマ : 病気と付き合いながらの生活
ジャンル : 心と身体

おめでとう!

火曜日は久しぶりに主治医のT先生の診察に同行した。

T先生が夫に

「Sさん、今日は奥さんも一緒でうれしいですねえ。」

と話しかけると、夫は

「あはは、それはですね、実はあそこにちょっと・・・。」

と待ってましたとばかりに訳の分からない話を楽しそうにはじめた。

T先生は夫の話を相槌をうちながらきちんと聞き終わった後で、

「残念ながら少しずつ病気は進行していると思います。

でも本人が今の状態を辛いと思わず気持ちよく生活を送られているようなので、良いんじゃないでしょうか。」

と夫の現状を好意的に評価した。

私もT先生の意見に同意した。治らないのであったら、今の状態に満足するべきだと思う。

診察が終わって帰る時に、T先生は

「うん、やっぱり今日はいつもより表情が明るくて反応も良いよ。奥さん効果かな。」

と私を喜ばせることをおっしゃってくれた。

夫もT先生もやさしいなあ。


ホームに戻ると、介護主任のHさんが私に

「今から事例研究の発表のリハーサルをやるので聞いていただけないでしょうか。」

と頼みにいらした。

Sホームのスタッフは常に介護現場における事例研究に取り組んでおり、2年前からは若年性アルツハイマー

の夫を事例研究の対象として選んでいた。その発表が今週行われる。

一階のロビーでパワーポイントを使ったYさんの発表のリハーサルが行われた。

発表のテーマは「僕たちの居場所は…今私たちにできることー」

Yさんは制限時間8分をフルに使って次のような内容を自分の言葉でわかりやすく発表した。

Yさんたちスタッフの取り組みは在宅介護の方にも参考になる部分があると思うので紹介させていただきます。


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1 はじめに 

若年性認知症についての紹介

夫のプロフィールと家族構成、若年性アルツハイマーの夫が老人介護施設に入居した理由。

2 受け入れたばかりの夫の状態、問題点

   ① いらいらして壁をたたいてどなる ー 集団生活が苦手。
  
   ② 夜の放尿ー新しい場所に慣れない
  
   ③ 老人ばかりの環境になじめず居場所がなくて孤立する―することがなくて一日中歩き回る

 →高齢者施設で若年性認知症にどのような対応をするべきか事例研究として取り組むことにする 

3 取り組み1
 ① 家族から生活習慣を詳しく聞いて生活情報シートを作成

   15分ごとに夫を観察して行動表を作成            

    →問題の起こる背景を理解する 

   結果: 不穏の原因
         自分の望まない時間に起床するのが苦痛。
         家族と長時間の外出の翌日。
         ホームでの様々な雑音等 


 ② スタッフ全員が若年性アルハイマーについて勉強するー主治医のT先生に講義してもらう。
 
4 取り組み2 → 具体的な対応  

 ① 身体的エネルギーの発散
  
    --公園へ散歩。買い物代行の付き添い。マックで軽食(同性同世代のホーム長が同行)。
 
       効果: 夜間の睡眠向上。
           徘徊、放尿の減少
           同年代の方との散歩で笑顔が増える
。 
 ② 役割を持つ
 
    --毎食後の食器洗い、行事の準備作業の手伝い→必ず感謝の言葉を伝える
    
        効果: 信頼関係が良好に 
 
 ③ クールダウン
   ---表情を観察して静かな場所に案内し、なじみのあるCDや本を取り入れる
 
        効果: 落ち着いた時間がもてるように

5 今後の対応 
 
   今まで出来ていたことが出来なくなっていく

   「何かをしたい」「頼りにしてほしい」と本人が訴えかけていることを受け止める必要

    →スタッフの一対一の対応が必要 課題も大きく更なる取り組みが必要


6 近況 長女の結婚式へ参加ーー父親の役目を果たした 
  
  ホームから手作りの貼り絵をプレゼントする → 家族からも感謝され手作りの色紙のお礼が

7 まとめ

  高齢者との団体生活やホームのルールに合わせるだけではいけない。
  
  生活リズムを大切にし、人生を尊重しながら症状にうまく対応していくことが大切

  入居者の存在価値を見つけ出す介護の難しさ

  入居者にとって本当に居心地の良い居場所を作る取り組みをこれからも続けていきたい


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パワーポイントを見ながらYさんの発表を聞いていると、

「そういえばそんなこともあったなあ~」

と色々な出来事が走馬灯のようにあれこれ思い出され、

改めて夫の介護に真摯に向き合って下さっているスタッフの皆さんに心から感謝した。

私たち家族以外にも夫のことをこんなにも考えて心配してくれる人がいらっしゃることがわかって本当にうれしい。

いや、15分に1度夫のことを考えてくれるなんて私の夫に対する思いをはるかに上回っているではないか!

最高の仕事を極めるために努力を怠らない方たちに夫をお願いして良かったと思った。

若い皆さんが夫の介護を通じて、色々なことを学び成長し続けていることが実感できたのもうれしかった。

Yさんたちが夫の介護を通じて「入居者の存在価値を見つけ出す難しさ」を感じていることにも感激した。

それは私自身が夫の介護をしていた時にも日々感じていたことでもあったからである。

一度看護士さんと夫の状態について話しているときに、看護士さんが思わず

「なんだか切ないですね。」と私におっしゃられたことがあった。

結婚式に夫が参加している写真をみたらスタッフの皆さんはみな涙を流して「良かったね」と言い合ったそうだ。

たとえ家族でなくても、仕事として介護を行っているのであっても、スタッフさんと私たち家族とは

夫に対する思いが共有できる関係を築くことができた。 

この発表を通じて、老人ホームでも工夫次第で若年性アルツハイマーを受け入れることができると

皆さんが思ってくれたら良いなぁ....。

 もちろん一番良いのは、若年性アルツハイマー専門の介護施設が出来ることだけど・・。

 
ここまで書いたらスタッフさんからの速報がラインで入ってきた。
 
 Yさんの発表は見事に優秀賞をいただいたそうです。

 仕事の間をぬって原稿とパワーポイントを作成し何回もリハーサルをしたスタッフの皆さんの努力が報われて良かった!

 スタッフの皆さんおめでとうございます。


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仲良きことは美しき哉

先週は長女夫婦がラッキーと夫に会いに来てくれた。

ラッキーは先週少し具合が悪くなったので心配したが、薬の種類を増やしたら何とか復活。

大好きな娘夫婦の顔を見ると大喜びで短い尻尾をふって新婚ほやほやの二人を祝福してくれた。


翌日、3人でホームを訪れた。夫はお出かけ用のセーターとズボンを着て、

一階のソファーで若いスタッフさんとおしゃべりしながら私たちが来るのを待っていてくれた。

私 「お父さん、今日はちーちゃんと旦那さんのH君が会いに来てくれたよ。」

夫 「それはどうも、こんにちは。」

夫は満面の笑みをうかべてH君に丁寧にあいさつをした。

私 「H君とちーちゃんは去年の秋に結婚したんだよ。」

娘 「お父さんも結婚式に来てくれたよね。」

理解できないとわかっていても、おめでたいことは何回でも言いたくなってしまう。

4人で冬の用水路を散歩した。

もしかしたらH君の前世は鳥だったのかもしれない。

H君と用水路を歩くといつもよりたくさんの鳥と出会うことが出来るからだ。

まずはにぎやかなカルガモのグループに出会った。

ところが一羽のカルガモがグループと離れたところでぽつんと佇んでいる。

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私「うーん、あの子はどうしたんだろう。気になるなあ。」

娘「カルガモにも一人でいたい時があるのかもね・・。」

餌をさがして優雅に用水路を闊歩するシロサギにも出会った。

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なんと鳥の宝石とも言われる位にきれいなカワセミにも会うことが出来た。

背中が鮮やかな翡翠色でおなかは朱色、くちばしが長くとがっている。
(残念ながらこの写真は私が撮ったものではありません。)

375px-日本のカワセミ


私は興奮して若夫婦にカワセミを指さして言った。

私「ほら!あそこに背中が青い鳥がいるでしょ!あれはカワセミと言ってめったに見られないんだよ!」

娘「ホントだ。可愛い鳥。」

カワセミは止まっていた桜の木の枝から急に水面に向かって飛び、

それから私たちの近くの岩でしばらく休憩してからまた枝に戻っていった。

娘 「あっカワセミが魚をくわえている。」

私 「本当だ、何の魚だろう。」

もちろん夫にも「カワセミがいるよ」と教えてあげたが、

彼は遠くのカワセミよりも近くのH君のことが気になるようで、H君と目が合うたびに、

「あっこんにちは、どうぞよろしく。」

とニコニコ笑いながらていねいにH君にお辞儀をする。

夫がお辞儀をする相手はH君だけでない、

夫は数年前から用水路を歩くすべての人を知り合いの先生と思うようになり、

誰かと通り過ぎるたびに

「どうも、こんにちは。」と丁寧に立ち止まって挨拶して、私に先生の名前を教えてくれる。

今日もいっぱい知り合いの先生に会えてよかったね。


さらに歩くと、遊歩道にあるベンチに仲良く座っている4人の男性のお年寄りの姿が目に入った。

近くのコンビニで買ってきたカップ酒とおつまみを片手に、何やら楽しそうにおしゃべりをしている。

私「このおじいさんたち、週末はいつもここでおしゃべりしている気がする。本当に仲がよさそう。」

娘「へ~え 何つながりで何を話しているんだろうね。」

私「共通の趣味があるのかな。それとも、地元の幼友達?」

娘「あ~あ、私にはおばあさんになってもこんな風にずっと仲良くできるような友達いるのかな・・。」

父も義父母も晩年にはこうして気楽におしゃべりができる友達が近くにいなかった。

もしもこういうお友達がいたらもう少し楽しい毎日が送れたのかもしれない。


のんびりおしゃべりしながら歩いているうちに駅前のレストランに無事に到着。

夫は今日も食欲旺盛で、ナポリタンを完食した後、私が頼んだドリアも半分食べてくれた。

ゆっくりと美味しいランチをいただいてお腹がいっぱいになってホームに戻った。

同じ道で帰ると、おじいさん4人組はまだベンチでのんびりおしゃべりをしている。

いったい楽しそうに何の話をしているんでしょうかねえ。


娘は久しぶりに会った父親がとても明るく元気そうなので安心したといった。

「みんなそれぞれの楽しみ方があって、お父さんもラッキーも今が楽しいと感じる時があるから、

それでいいのかもしれないね。」

私の方は娘がとても元気で幸せそうなのでこれまた安心した。

「だから遠いところから無理をしてお父さんに会いに来なくて大丈夫だよ。」

そういいながらふと、

「もしかしたら賢い夫とラッキーは娘夫婦に安心してもらうために元気にふるまったのかもしれない。」

と思った。

夫「ラッキー、新婚さんがきたら喜んで尻尾をふるんだぞ。おれも頑張るから。わかったな。」

ラ「(わかった)ワン。」

仲が良かった二人はきっと今でも私の知らないところで連絡を取り合っているのに違いない。


そういえば夫もあのおじいさんたちと同様に友達を大切にする人であった。

久しぶりに夫のお友達に連絡を取って遊びに来ていただこうかな。

テーマ : 幸せに生きる
ジャンル : 心と身体

生きる力

長くブログを放置してしまいました(#^.^#)。

この一か月は雑用に追われて、ブログを書く気持ちのゆとりがなかった。

年末年始の大掃除もおせち料理作りもすべてパスして、

ためこんでいた宿題と格闘するぼっちのお正月でした(・∀・)ノ。

まさか年末年始に自分の時間が持てる日がこんなに早く訪れるとは思っていなかったが、

貴重な時間をプレゼントしてくれた家族に感謝しながら

一日中一人で本を読んだり書き物をするという得難い経験をしました。

とはいっても宿題をためて休日にするのはほめられるべき習慣ではない。

日頃の仕事のやり方がまずかったのかもと大反省(´;ω;`)

今年はもっと効率の良い仕事の方法を考えて、

週末に気の利いたおみやげを持参して夫に会いに行けるぐらいの気持ちのゆとりを持ちたい。

夫とはいつも通りに週末に会いに行く以外に、

夫の元同僚の方たちの新年会に参加したり、旧正月の日に中華街に遊びに行ったりした。

これは久しぶりに夫と散歩ができて(たぶん)うれしそうなラッキー君。
IMG_2568_Ink_LI.jpg

ホームのロビーには、今年もお正月の行事の写真が所狭しと張り出されていた。

年末の餅つき大会、そばうち、元旦のおせち料理、初詣、獅子舞・・・・

夫が私よりずっとお正月らしい毎日を送っていたことがわかって一安心。

そして今年の夫は、ななんと書初めまでしているではないか。



「生きる力」

久しぶりの夫の字を見ているうちに感極まって思わず涙腺がゆるんでしまった。

以前ブログで「書けない手紙」という文を書いたことがある。

http://menghualu.blog.fc2.com/blog-date-201108-1.html


当時の彼は簡単な手紙すら書けなくなってしまった自分に向き合うことが出来ずにもがき苦しんでいた。

出来ることがなくなっていく地獄の苦しみを経て、今の彼はあるがままの自分を受け止めることが出来る、

悟りの域に到達したのだと思うことにしよう。

字に素朴な「生きる力」が感じられてうれしい。

さっそく写真にとって娘たちに送って見せてあげると、すぐに、

「お父さん生きる力があふれてるね~」

と私と同じ感想が返ってきた。


かつて元旦に暗い顔をして「死にたい」と怒鳴っていた夫が、明るい顔で正月行事に取り組めるように

なったのはひとえにホームのスタッフさんの尽力の賜物である。

私は夫の笑顔のお正月の写真が見られるだけで大満足だ、

別に家族全員で手作りのおせち料理をいただく風習にとらわれなくても良いかな(作るのも面倒くさいし

これからは家族それぞれが「生きる力」をもって自分に合った道を歩めばよいと思っている。


半年前から毎日二駅分歩いてから地下鉄に乗って職場に行く習慣をつけている。

途中通り抜ける大きな公園で、落葉した冬の大樹の素の姿を見るのが好きだ。

どの木も枝ぶりが大きく異なっている。

どの枝も空に向かってきれいに伸びている木もあれば、

何かの事情で幹が大きく曲がりくねってしまった木もある。

中には太い幹が裂けて横倒しになった方から徒長した枝が元気に成長している波乱万丈型の木もある。

これを見ていると、私と夫の人生もこれらの木と同じで、少しぐらい木の形が歪んでしまっていても、

なんとか意欲をもって生き続けていれば良いのかなと思ったりする。

歪んだ形の木もそれはそれで味わいがあるわけで・・。

これからも、この公園の自然から生きる道理について学び、地球の一員として他の生物と仲良くしながら

生き続けていこうと思っています。


テーマ : ポジティブでいこう!
ジャンル : 心と身体

2016年のメリクリ

今年のクリスマス、皆さんはどのように過ごされましたか?。

私と夫はまず施設で開催するクリスマス会でケーキをいただき、スタッフさんのハンドベル伴奏で皆できよしこの夜を歌い

クリスマス気分を味わった。

そして24日には夫とささやかなクリスマスデートをした。

行先は施設の最寄り駅から3駅先にあるM駅前のファッションビル、三年連続同じ場所である。

夫にとっては久しぶりの電車。

特に階段の上り下りで踏み外して転ばないようにしっかりと手を握ってゆっくりと歩き無事目的地に到着した。

ビルの中ではエスカレーターに乗る時に気を使った。

東京のエスカレーターは二人が横並びをせず右端を歩く人用に空けておくという不文律がある。

そこで夫を左端に立たせてから自分は一段下の左端にさがり、夫の腰元を下から支えることにした。

上階に着いたのでエスカレーターを離れて歩き始めようとした時にちょっとしたハプニングが。

夫の前を歩いていた若い女性が急に立ち止まって私たちの方を振り返った。

「あっ。ひも・・・」

なんと夫はエスカレータ―で上っている時、一段前に立っている若い女性のデイバックから垂れていたひもを

つり革代わりにつかみ、エスカレーターを上り終わった後もそのひもをずっと握りしめたまま歩いていたのだ。

デイバッグをしょったお嬢さんはエスカレーターを離れて歩こうとした時に、何者が自分の後ろをひっぱって

いることに気が付き振り向くと、なんと知らない還暦近くのおじさんが自分のひもを握りしめているではないか・・。

私はあわてて夫の手からデイバッグのひもをふりほどいてお嬢さんにあやまった。

「どうも申し訳ございませんでした。」

あやまりながら夫が幼い子供でないことを心から残念に思った。

もしも子供だったら

「すみません。この子やんちゃなもので。」

と言い訳できるのだけれど。

お嬢さんは

「なぜおじさんが私のデイバッグのひもを?」と

大いに疑問を抱いたと思うが、その疑念をおくびに出さずににっこり笑って立ち去ってくれた。

こうして目的階に来たが、なんと去年にクリスマスのお菓子を食べたカフェはつぶれていて美容院になっていた。

でも、それは結果として大正解だった。

さらに素敵なカフェを見つけることが出来たからである。

その4階にあるカフェは、天井が最上階までの吹き抜けになっていて、明るい開放感のある空間にクリスマス飾りや

観葉植物がすっきりと配置されていた。

私たちは折よく駅前ロータリーのクリスマスイルミネーションがよく見える窓際の席に座ることが出来た。

夫はこのカフェの雰囲気が気に入ったようで、お水とメニューをもってきた若い女性のスタッフさんに笑いながら

「ここは、とても良いところですね。実に素晴らしい。」

と話しかけると、彼女もにっこり微笑んで

「有難うございます。ふきぬけになっているので、明るい自然な雰囲気を楽しんでいただけたらうれしいです。」

と答えてくれた。

すると夫は更に喜んで

「それは、あそことここのところが前からずっと・・・・・」

と一般人には理解しがたい説明をし始めてスタッフさんをとまどわせてしまった。

そこで私が夫が少し話につまったタイミングで、

「あっ どうもありがとうございます。」

と言って、彼女を解放させてあげた。

注文したフルーツタルトとマロンケーキはびっくりするほど美味しかった。



あまりケーキのことに詳しくないのでうまく言えないが、これは私が時々食べるコンビニのケーキと全く違う種類に

属する食品だと思った。きっと使っている材料や製造方法自体が全く安いケーキと異なるのだろう。

驚いたことに、普段あまり積極的にケーキを食べない夫が一口食べたら目の色が変わりあっという間に食べてし

まった。しかもその後は、私のまだ半分以上残っているケーキをもの欲しそうに眺めているではないか。

いや、こんな高くて美味しいケーキをそう簡単にはあげられないぞ。

ケチな私は夫の欲しいそぶりを無視して自分のケーキを味わって食べていた。

すると彼はいきなりテーブルの上の角砂糖を手にとって食べ始めるという暴挙に出た。

私があわてて

「これを食べるのはやめようね。」

といって彼の暴挙を戒めると

「だってケーキくれないんだもん。」という情けない表情をしてみせる。

しかたがなく私のケーキを半分分けてあげると大喜びでむしゃむしゃ食べて

「うん うまい!」

夫のおかげでブログに書けるような愉快なクリスマスを過ごすことが出来ました。

いろいろなことがあった2016年も間もなく終わりを告げようとしている。

一番うれしかったのは不治の病を患っている夫とラッキーが穏やかな毎日を過ごすことが出来たことだ。

今年も彼らからいろいろなことを学ばせてもらった。

今までの私は、常に目標をもち学んで知識を増やすことで生きがいのある人生を送ることができると信じ、

それなりに努力を重ねてきた。

だから夫に対しても、たとえ働けなくても極力病気の進行を遅らせて目標をもった生きがいのある毎日を過ごして

もらうことをつい望んでしまった。

今の私は「充実した残りの人生を過ごして欲しい」という思いが繊細な心の持ち主の彼にストレスを与えて

しまったことを大いに反省している。

彼は病気が進行し記憶を失ったことによって、ようやく世間や私からの精神的束縛から逃れることができたのだと思う。

今の彼は既存の権威や偏見にとらわれない自由な精神を持っている。

ラッキーに負けないくらいのびやかな毎日を過ごし、その存在は私たちに元気を与えてくれる。

来年はそんな夫とラッキーから多くを学び、小賢しい知識に頼らない自然の摂理に沿った人生の歩み方を模索していきたい。

来年が皆さんにとっても夫とラッキーにとっても楽しい年でありますように!

テーマ : 幸せに生きる
ジャンル : 心と身体

プロフィール

ルッコラ

Author:ルッコラ
ルッコラとバジルが大好きです。
家族は夫と娘二人と黒いフレンチブルドッグのラッキー君。
2009年に若年性アルツハイマーと診断された夫は在宅介護と認知症専門病院の入院を経て、現在は有料老人ホームにいます。介護は初心者なので、どうぞ感想やアドバイスをお願いいたします。

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