仲良きことは美しき哉

先週は長女夫婦がラッキーと夫に会いに来てくれた。

ラッキーは先週少し具合が悪くなったので心配したが、薬の種類を増やしたら何とか復活。

大好きな娘夫婦の顔を見ると大喜びで短い尻尾をふって新婚ほやほやの二人を祝福してくれた。


翌日、3人でホームを訪れた。夫はお出かけ用のセーターとズボンを着て、

一階のソファーで若いスタッフさんとおしゃべりしながら私たちが来るのを待っていてくれた。

私 「お父さん、今日はちーちゃんと旦那さんのH君が会いに来てくれたよ。」

夫 「それはどうも、こんにちは。」

夫は満面の笑みをうかべてH君に丁寧にあいさつをした。

私 「H君とちーちゃんは去年の秋に結婚したんだよ。」

娘 「お父さんも結婚式に来てくれたよね。」

理解できないとわかっていても、おめでたいことは何回でも言いたくなってしまう。

三人で冬の用水路を散歩した。

もしかしたらH君の前世は鳥だったのかもしれない。

H君と用水路を歩くといつもよりたくさんの鳥と出会うことが出来るからだ。

まずはにぎやかなカルガモのグループに出会った。

ところが一羽のカルガモがグループと離れたところでぽつんと佇んでいる。

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私「うーん、あの子はどうしたんだろう。気になるなあ。」

娘「カルガモにも一人でいたい時があるのかもね・・。」

餌をさがして優雅に用水路を闊歩するシロサギにも出会った。

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なんと鳥の宝石とも言われる位にきれいなカワセミにも会うことが出来た。

背中が鮮やかな翡翠色でおなかは朱色、くちばしが長くとがっている。
(残念ながらこの写真は私が撮ったものではありません。)

375px-日本のカワセミ


私は興奮して若夫婦にカワセミを指さして言った。

私「ほら!あそこに背中が青い鳥がいるでしょ!あれはカワセミと言ってめったに見られないんだよ!」

娘「ホントだ。可愛い鳥。」

カワセミは止まっていた桜の木の枝から急に水面に向かって飛び、

それから私たちの近くの岩でしばらく休憩してからまた枝に戻っていった。

娘 「あっカワセミが魚をくわえている。」

私 「本当だ、何の魚だろう。」

もちろん夫にも「カワセミがいるよ」と教えてあげたが、

彼は遠くのカワセミよりも近くのH君のことが気になるようで、H君と目が合うたびに、

「あっこんにちは、どうぞよろしく。」

とニコニコ笑いながらていねいにH君にお辞儀をする。

夫がお辞儀をする相手はH君だけでない、

夫は数年前から用水路を歩くすべての人を知り合いの先生と思うようになり、

誰かと通り過ぎるたびに

「どうも、こんにちは。」と丁寧に立ち止まって挨拶して、私に先生の名前を教えてくれる。

今日もいっぱい知り合いの先生に会えてよかったね。


さらに歩くと、遊歩道にあるベンチに仲良く座っている4人の男性のお年寄りの姿が目に入った。

近くのコンビニで買ってきたカップ酒とおつまみを片手に、何やら楽しそうにおしゃべりをしている。

私「このおじいさんたち、週末はいつもここでおしゃべりしている気がする。本当に仲がよさそう。」

娘「へ~え 何つながりで何を話しているんだろうね。」

私「共通の趣味があるのかな。それとも、地元の幼友達?」

娘「あ~あ、私にはおばあさんになってもこんな風にずっと仲良くできるような友達いるのかな・・。」

父も義父母も晩年にはこうして気楽におしゃべりができる友達が近くにいなかった。

もしもこういうお友達がいたらもう少し楽しい毎日が送れたのかもしれない。


のんびりおしゃべりしながら歩いているうちに駅前のレストランに無事に到着。

夫は今日も食欲旺盛で、ナポリタンを完食した後、私が頼んだドリアも半分食べてくれた。

ゆっくりと美味しいランチをいただいてお腹がいっぱいになってホームに戻った。

同じ道で帰ると、おじいさん4人組はまだベンチでのんびりおしゃべりをしている。

いったい楽しそうに何の話をしているんでしょうかねえ。


娘は久しぶりに会った父親がとても明るく元気そうなので安心したといった。

「みんなそれぞれの楽しみ方があって、お父さんもラッキーも今が楽しいと感じる時があるから、

それでいいのかもしれないね。」

私の方は娘がとても元気で幸せそうなのでこれまた安心した。

「だから遠いところから無理をしてお父さんに会いに来なくて大丈夫だよ。」

そういいながらふと、

「もしかしたら賢い夫とラッキーは娘夫婦に安心してもらうために元気にふるまったのかもしれない。」

と思った。

夫「ラッキー、新婚さんがきたら喜んで尻尾をふるんだぞ。おれも頑張るから。わかったな。」

ラ「(わかった)ワン。」

仲が良かった二人はきっと今でも私の知らないところで連絡を取り合っているのに違いない。


そういえば夫もあのおじいさんたちと同様に友達を大切にする人であった。

久しぶりに夫のお友達に連絡を取って遊びに来ていただこうかな。
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生きる力

長くブログを放置してしまいました(#^.^#)。

この一か月は雑用に追われて、ブログを書く気持ちのゆとりがなかった。

年末年始の大掃除もおせち料理作りもすべてパスして、

ためこんでいた宿題と格闘するぼっちのお正月でした(・∀・)ノ。

まさか年末年始に自分の時間が持てる日がこんなに早く訪れるとは思っていなかったが、

貴重な時間をプレゼントしてくれた家族に感謝しながら

一日中一人で本を読んだり書き物をするという得難い経験をしました。

とはいっても宿題をためて休日にするのはほめられるべき習慣ではない。

日頃の仕事のやり方がまずかったのかもと大反省(´;ω;`)

今年はもっと効率の良い仕事の方法を考えて、

週末に気の利いたおみやげを持参して夫に会いに行けるぐらいの気持ちのゆとりを持ちたい。

夫とはいつも通りに週末に会いに行く以外に、

夫の元同僚の方たちの新年会に参加したり、旧正月の日に中華街に遊びに行ったりした。

これは久しぶりに夫と散歩ができて(たぶん)うれしそうなラッキー君。
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ホームのロビーには、今年もお正月の行事の写真が所狭しと張り出されていた。

年末の餅つき大会、そばうち、元旦のおせち料理、初詣、獅子舞・・・・

夫が私よりずっとお正月らしい毎日を送っていたことがわかって一安心。

そして今年の夫は、ななんと書初めまでしているではないか。



「生きる力」

久しぶりの夫の字を見ているうちに感極まって思わず涙腺がゆるんでしまった。

以前ブログで「書けない手紙」という文を書いたことがある。

http://menghualu.blog.fc2.com/blog-date-201108-1.html


当時の彼は簡単な手紙すら書けなくなってしまった自分に向き合うことが出来ずにもがき苦しんでいた。

出来ることがなくなっていく地獄の苦しみを経て、今の彼はあるがままの自分を受け止めることが出来る、

悟りの域に到達したのだと思うことにしよう。

字に素朴な「生きる力」が感じられてうれしい。

さっそく写真にとって娘たちに送って見せてあげると、すぐに、

「お父さん生きる力があふれてるね~」

と私と同じ感想が返ってきた。


かつて元旦に暗い顔をして「死にたい」と怒鳴っていた夫が、明るい顔で正月行事に取り組めるように

なったのはひとえにホームのスタッフさんの尽力の賜物である。

私は夫の笑顔のお正月の写真が見られるだけで大満足だ、

別に家族全員で手作りのおせち料理をいただく風習にとらわれなくても良いかな(作るのも面倒くさいし

これからは家族それぞれが「生きる力」をもって自分に合った道を歩めばよいと思っている。


半年前から毎日二駅分歩いてから地下鉄に乗って職場に行く習慣をつけている。

途中通り抜ける大きな公園で、落葉した冬の大樹の素の姿を見るのが好きだ。

どの木も枝ぶりが大きく異なっている。

どの枝も空に向かってきれいに伸びている木もあれば、

何かの事情で幹が大きく曲がりくねってしまった木もある。

中には太い幹が裂けて横倒しになった方から徒長した枝が元気に成長している波乱万丈型の木もある。

これを見ていると、私と夫の人生もこれらの木と同じで、少しぐらい木の形が歪んでしまっていても、

なんとか意欲をもって生き続けていれば良いのかなと思ったりする。

歪んだ形の木もそれはそれで味わいがあるわけで・・。

これからも、この公園の自然から生きる道理について学び、地球の一員として他の生物と仲良くしながら

生き続けていこうと思っています。


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2016年のメリクリ

今年のクリスマス、皆さんはどのように過ごされましたか?。

私と夫はまず施設で開催するクリスマス会でケーキをいただき、スタッフさんのハンドベル伴奏で皆できよしこの夜を歌い

クリスマス気分を味わった。

そして24日には夫とささやかなクリスマスデートをした。

行先は施設の最寄り駅から3駅先にあるM駅前のファッションビル、三年連続同じ場所である。

夫にとっては久しぶりの電車。

特に階段の上り下りで踏み外して転ばないようにしっかりと手を握ってゆっくりと歩き無事目的地に到着した。

ビルの中ではエスカレーターに乗る時に気を使った。

東京のエスカレーターは二人が横並びをせず右端を歩く人用に空けておくという不文律がある。

そこで夫を左端に立たせてから自分は一段下の左端にさがり、夫の腰元を下から支えることにした。

上階に着いたのでエスカレーターを離れて歩き始めようとした時にちょっとしたハプニングが。

夫の前を歩いていた若い女性が急に立ち止まって私たちの方を振り返った。

「あっ。ひも・・・」

なんと夫はエスカレータ―で上っている時、一段前に立っている若い女性のデイバックから垂れていたひもを

つり革代わりにつかみ、エスカレーターを上り終わった後もそのひもをずっと握りしめたまま歩いていたのだ。

デイバッグをしょったお嬢さんはエスカレーターを離れて歩こうとした時に、何者が自分の後ろをひっぱって

いることに気が付き振り向くと、なんと知らない還暦近くのおじさんが自分のひもを握りしめているではないか・・。

私はあわてて夫の手からデイバッグのひもをふりほどいてお嬢さんにあやまった。

「どうも申し訳ございませんでした。」

あやまりながら夫が幼い子供でないことを心から残念に思った。

もしも子供だったら

「すみません。この子やんちゃなもので。」

と言い訳できるのだけれど。

お嬢さんは

「なぜおじさんが私のデイバッグのひもを?」と

大いに疑問を抱いたと思うが、その疑念をおくびに出さずににっこり笑って立ち去ってくれた。

こうして目的階に来たが、なんと去年にクリスマスのお菓子を食べたカフェはつぶれていて美容院になっていた。

でも、それは結果として大正解だった。

さらに素敵なカフェを見つけることが出来たからである。

その4階にあるカフェは、天井が最上階までの吹き抜けになっていて、明るい開放感のある空間にクリスマス飾りや

観葉植物がすっきりと配置されていた。

私たちは折よく駅前ロータリーのクリスマスイルミネーションがよく見える窓際の席に座ることが出来た。

夫はこのカフェの雰囲気が気に入ったようで、お水とメニューをもってきた若い女性のスタッフさんに笑いながら

「ここは、とても良いところですね。実に素晴らしい。」

と話しかけると、彼女もにっこり微笑んで

「有難うございます。ふきぬけになっているので、明るい自然な雰囲気を楽しんでいただけたらうれしいです。」

と答えてくれた。

すると夫は更に喜んで

「それは、あそことここのところが前からずっと・・・・・」

と一般人には理解しがたい説明をし始めてスタッフさんをとまどわせてしまった。

そこで私が夫が少し話につまったタイミングで、

「あっ どうもありがとうございます。」

と言って、彼女を解放させてあげた。

注文したフルーツタルトとマロンケーキはびっくりするほど美味しかった。



あまりケーキのことに詳しくないのでうまく言えないが、これは私が時々食べるコンビニのケーキと全く違う種類に

属する食品だと思った。きっと使っている材料や製造方法自体が全く安いケーキと異なるのだろう。

驚いたことに、普段あまり積極的にケーキを食べない夫が一口食べたら目の色が変わりあっという間に食べてし

まった。しかもその後は、私のまだ半分以上残っているケーキをもの欲しそうに眺めているではないか。

いや、こんな高くて美味しいケーキをそう簡単にはあげられないぞ。

ケチな私は夫の欲しいそぶりを無視して自分のケーキを味わって食べていた。

すると彼はいきなりテーブルの上の角砂糖を手にとって食べ始めるという暴挙に出た。

私があわてて

「これを食べるのはやめようね。」

といって彼の暴挙を戒めると

「だってケーキくれないんだもん。」という情けない表情をしてみせる。

しかたがなく私のケーキを半分分けてあげると大喜びでむしゃむしゃ食べて

「うん うまい!」

夫のおかげでブログに書けるような愉快なクリスマスを過ごすことが出来ました。

いろいろなことがあった2016年も間もなく終わりを告げようとしている。

一番うれしかったのは不治の病を患っている夫とラッキーが穏やかな毎日を過ごすことが出来たことだ。

今年も彼らからいろいろなことを学ばせてもらった。

今までの私は、常に目標をもち学んで知識を増やすことで生きがいのある人生を送ることができると信じ、

それなりに努力を重ねてきた。

だから夫に対しても、たとえ働けなくても極力病気の進行を遅らせて目標をもった生きがいのある毎日を過ごして

もらうことをつい望んでしまった。

今の私は「充実した残りの人生を過ごして欲しい」という思いが繊細な心の持ち主の彼にストレスを与えて

しまったことを大いに反省している。

彼は病気が進行し記憶を失ったことによって、ようやく世間や私からの精神的束縛から逃れることができたのだと思う。

今の彼は既存の権威や偏見にとらわれない自由な精神を持っている。

ラッキーに負けないくらいのびやかな毎日を過ごし、その存在は私たちに元気を与えてくれる。

来年はそんな夫とラッキーから多くを学び、小賢しい知識に頼らない自然の摂理に沿った人生の歩み方を模索していきたい。

来年が皆さんにとっても夫とラッキーにとっても楽しい年でありますように!

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お父さんありがとう

50年ぶりに11月に初雪が降った翌々日、都内の神社で長女の結婚式を無事に挙げることが出来た。



おかげさまで夫は花嫁の父親役を最後まできちんと果たしてくれた。

着物に着替えた私と下の娘が親族控室で親戚の方と挨拶をしていると、

礼服を着た夫がスタッフさんに連れられてやってきた。

スタッフさんの尽力のおかげで今日の夫はご機嫌の様子。

新郎のお父様に積極的に近寄って、「どうも、どうも」と笑いながら自然に手をさしのべた。

新郎パパも笑みを浮かべて「どうもご無沙汰しています。今日はよろしくお願いします。」と夫の手を力強く握って下さった。

神前式の結婚の儀はざっと以下のような流れで行われた。

1 神職と巫女に導かれ新郎新婦、両家の親の順で秋の神社の庭を通り抜けて本殿に向かう。。

2. 親族にみまもられて新郎新婦と両家の親が本殿に入場する。

3 神職が祓詞を述べて身のけがれをはらい清めた後、神職が.祝詞を奉じ神に2人の結婚を報告する。

4 三々九度の盃。

5 新郎新婦が夫婦になることを誓う言葉を読み上げる。

6 巫女が親族にお神酒を注ぎ一斉に飲みほす。

7 神職が式を執り納めたことを神に報告してから神職、新郎新婦、仲人、親族の順番で退場。

最後に神殿の前で集合写真を撮った。

凛とした厳かな空気に包まれた本殿で夫が急に立ち上がって叫びながら歩き回ったらどうしようか

とあれこれ心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

式の流れに沿ったふるまいをしてくれた。

時には雅楽のメロディをそっと口ずさんだり、意味不明の言葉をあれこれつぶやいていた。

彼にはちゃんと神様が見えていて「娘たちをよろしく」とお願いをしてくれていたのだと思おう。

披露宴は両家の親族だけのアットホームな雰囲気で行われた。

夫は全ての食事を一人でほとんど食べることができた。

途中で少しあきてお箸をもって歩き出すとホームのスタッフの方がそっと外に連れ出して下さったりしたので

私は安心して心から披露宴を楽しむことが出来た。

途中で新郎側の親族の方が編集して下さった新郎新婦の成長の記録をまとめたスライドが流された。

2人ともなるべく参列した人たちが登場している昔の写真を選んだので、

どのテーブルの方も「あっみんなでここに行ったね。」等なつかしそうに思い出を語り合い

会場全体がほっこりとした雰囲気に包まれた。

夫の「イケメン」時代の写真もあったので、後から新郎側の親族の方から

「ご主人は本当にかっこよいですね。」とお褒めの言葉をいただいた(笑)

ホームの方たちから娘夫婦へのプレゼントもあった。

私たち一家4人を描いた可愛い貼り絵である。

入居者のみなさんとスタッフのみなさんで作って下さった力作が夫から娘へ手渡されて、娘も私も思わず涙。

そして披露宴の最後、娘が私たちへの感謝の手紙を泣きながら読んでくれた。

父親に対して次のような感謝の言葉をのべて、多くの方を泣かせてしまった。

「お父さん、高校受験の時につきっきりで勉強を教えてくれました。

最初はお父さんに教えてもらうのは嫌だったけれど、今ではかけがえのない時間だったと思っています。

真剣に取り組まない私を心配して

『○○子も自分のやりたいことを見つけてほしい』と言っていたのを今でも覚えています。

私は今自分のやりたいことを見つけることが出来ました。

いつも温かく、そして時には厳しく私を見守ってくれたお父さんにはどれだけ感謝してもしきれません。

本当にありがとう。」

父親が一番伝えたかったメッセージは無事にちゃんと子供に届き、

子供たちは父親が望む通りの学ぶことに喜びを感じる人間に成長してくれた。

彼は父親としての一番大切な仕事を立派に果たしたのだと改めて思った。

あなたがやり残した人生の宿題を、もしかしたら二人の娘たちが片づけてくれるかもしれません。

よかったね、お父さん。

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衣装合わせ

前回の記事で紹介した介護度判定の結果通知が来た。

判定は前回から一段階進んだ「要介護4」。

確かに今の夫はすべての面で他人の介護が必要な状態となっている。

この状態で自由に歩けると介護側にとっては車いすや寝たきりの方より余計に大変なのかもしれない。

「要介護4」の判定は正しいと思う。

先週末は下の娘と一緒に夫に会いに行った。

今月末にある長女の結婚式に夫が着る礼服を試着させて次女に見てもらおうと思ったのである。

当初は新婦の父の正装であるモーニングをレンタルして着せようと思ったが、

現在の夫にあの格好はハードルが高すぎると思い断念した。

(着たらすごく似合ったと思うのだけれど、ちょっと残念)

今回着てもらうのは15年位前に購入した礼服。

当時の礼服はダブルでズボンの裾幅が太く、しかも肩パットが入っている。

「肩パットがバブルっぽいねえ。ちょっとださいなあ~。」

「う~ん、確かに。でも今から新しいのを買ってもねえ・・。」

と私と娘が話し合っていると、ホームのスタッフさんたちがやって来て礼服姿の夫を口々に褒めて下さった。

「とっても似合っていますよ。」

「大丈夫ですよ。うちの主人もこんな感じのダブルの礼服で最近結婚式出ちゃいました。」

「○○さん素敵~。似合っている。」

当の本人はなぜ急にこんな服を着せられたのか全く理解できていない。

でもみんなの笑顔につられて、楽しそうに意味不明のことを私たちに話しかけてきた。

ふと要介護1であった夫に、親戚の法事の前にスーツを着せた時のことを思い出した。

当時の夫は

「なぜこんな服を着なくてはいけないのかさっぱりわからない」

「勝手なことをするな。」

とわめきながらスーツを脱ぎ捨てようとして私を困らせた。

要介護4になって「何が何だかわからない」と嘆くこともできなくなった今の夫はとても穏やかだ。

「要介護1」の時よりも接しやすくなった。

----------「要介護1」と「要介護4」。彼自身にとってはどちらの方が幸せなのだろう。

と、彼の無邪気な笑顔を見てふと考えた。

天気が良いので持ってきた革靴をはいて礼服姿でホームの近くを散歩することにした。

用水路は桜並木の葉が色づきすっかり秋景色である。

私は夫になぜスーツを着るのかゆっくり説明した。

私「あのね、ちーちゃんがこんど結婚するんだよ。」

夫「そうですか。」

私「ちーちゃんってあなたの娘だよ。」

夫「むすめ。」

あまりにも反応が薄いので、今度は一緒に歩いている下の娘を指さして言った

私「これもあなたのむすめです、あ・き・え・・・」

夫「あ・き・え・・・・」

自分の名前をたどたどしく口にする夫をみて娘はこういった。

娘 「今のお父さん、まるでヘレンケラーがはじめてウォーターって言った時みたいだ。

  生まれてはじめてあきえって言葉を知ったような顔をしてる。」

え、ヘレンケラー?

私は娘の突拍子のない例えに思わずふきだしてしまった。でも言いえて妙かも・・。

確かに夫は娘の名前をきれいさっぱりと忘れてしまったと思われる。

でも当の娘はそれを深刻に受けとめるどころか、

実の父親の忘れっぷりを「ヘレンケラーがウォーターという言葉を初めて知った時みたい」と

さらっとシュールな例えにしてみせた。

現実を冷静にうけとめて、しかもそれをシュールなネタにすることで相手に「全然同情しなくていいよ」と知らせる。

娘のこういうところは父親譲りかなと思った。

もしも夫が今の娘の受け答えをきいていたら

「あきえもなかなかうまいこと言うね。」と喜んだかもしれない。

この会話に夫が真の「ボケ役」でしか参加できなくて本当に残念だと思った。

今の状態の夫が結婚式に参列することに迷いがないわけではなかった。

夫が式の途中で参列された方が不愉快に感じるような行為をするかもしれない。

さらに、式に参列するということが果たして今の夫にとってどれだけ意味があるのかという気持ちもある。

自分が娘の結婚式に出ていると認知できない夫に無理やり礼服を着せ彼が苦手なざわざわした場所に連れ出す。

私たちは認知症の彼に迷惑で辛い行為を押し付けているのかもしれない。

娘の花嫁姿を父親である彼に見てほしいと願うのは、認知症でない私たちの一方通行の「思い」に過ぎない。

それでも参列してもらおうと決めたのは、夫に父親としての役目を果たしてもらいたいと思ったからである。

例え認知症になっても父親役を降りることはできない。

大変ではあるが彼なりの父親役を演じることによって、参列した方に父親である夫の存在を認めてもらいたい。

幸いなことにホームのスタッフさんが夫の式の参列を全面的にサポートして下さる。

どうかうまくいきますように・・・。

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プロフィール

ルッコラ

Author:ルッコラ
ルッコラとバジルが大好きです。
家族は夫と娘二人と黒いフレンチブルドッグのラッキー君。
2009年に若年性アルツハイマーと診断された夫は在宅介護と認知症専門病院の入院を経て、現在は有料老人ホームにいます。介護は初心者なので、どうぞ感想やアドバイスをお願いいたします。

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